1.児童虐待とは
(1) 目的
「児童虐待の防止等に関する法律(以下児童虐待防止法という)」は児童虐待が児童の人権を著しく侵害し、その心身の成長及び人格の形成に重大な影響を与えるとともに、我が国における将来の世代の育成にも懸念を及ぼすことにかんがみ、児童に対する虐待の禁止、児童虐待の予防及び早期発見その他の児童虐待の防止に関する国及び地方公共団体の責務、児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援のための措置等を定めることにより、児童虐待の防止等に関する施策を促進し、もって児童の権利利益の擁護に資することを目的とする。
(2) 定義
児童虐待とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に観護するものをいう。以下同じ)がその看護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ)について行う次に掲げる行為をいう。
一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること(身体的虐待)
二 児童にわいせつな行為をすること、または児童にわいせつな行為をさせること(性的虐待)
三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食または長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること(ネグレクト)
四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家族における配偶者に対する暴力(配偶者・婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと(心理的虐待)
■虐待具体例
ア.身体的虐待
・打撲傷、あざ(内出血)、骨折、頭蓋内出血などの頭部外傷、 内臓損傷、刺傷、たばこなどによる火傷などの外傷を生じるような行為。首を絞める、殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、熱湯をかける。布団蒸しにする、溺れさせる、逆さ吊りにする、異物を飲ませる、食事を与えない、戸外にしめだす、縄などにより拘束するなどの行為。・意図的に子どもを病気にさせる。
・子どもへの性交、性的行為(教唆を含む)・子どもの性器を触る、または子どもに性器を触らせるなどの性的行為(教唆を含む)・子どもをポルノグラフィーの被写体にする
ウ.ネグレクト
・子どもの健康・安全への配慮を怠っている
(例えば)
① 重大な病気になっても病院に連れていかない
② 乳幼児を家に残したまま外出する なお、親がパチンコに熱中したり買い物をしたりするなどの間、乳幼児等の低年齢の子どもを自動車の中に放置し、熱中症で子どもが死亡したり、誘拐されたり、 乳幼児等低年齢の子どもだけを家に残したために火災で子どもが焼死したりする事件も、ネグレクトという虐待の結果であることに留意すべきである。・子どもの意思に反して学校等に登校させない。子どもが学校等に登校するように促すなどの子どもに教育を保障する努力をしない。・子どもにとって必要な情緒的欲求に応えていない(愛情遮断など) ・食事、衣服、住居などが極端に不適切で、健康状態を損なうほどの無関心・怠慢など (例えば)
① 適切な食事を与えない
② 下着など長時間ひどく不潔なままにする
③ 極端に不潔な環境の中で生活をさせるなど・子どもを遺棄したり、置き去りにする・祖父母、きょうだい、保護者の恋人などの同居人や自宅に出入りする第三者がア、イまたは次のエに掲げる行為を行っているにも関わらず、それを放置する
エ.心理的虐待
・ことばによる脅かし、脅迫など ・子どもを無視したり、拒否的な態度を示すことなど ・子どもの心を傷つけることを繰り返し言う ・子どもの自尊心を傷つけるような言動をする ・他の兄弟とは著しく差別的な扱いをする ・配偶者やその他の家族などに対する暴力や暴言 ・子どもの兄弟に、ア~エを行う
2.児童虐待における放課後等デイサービスの役割
放課後等デイサービス等の児童福祉施設は、児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならない。また、正当な理由なく、職務に関して知り得た児童虐待を受けたと思われる児童に関する秘密を漏らしてはならない。さらに、 児童及び保護者に対して、児童虐待防止のための教育又は啓発に努めなければならない。
3.虐待の予防、早期発見
(1) 虐待の発生予防
① 療育を通して保護者の育児負担を軽減する
② 職員や保護者同士の交流を通じて育児不安を和らげる
③ 療育の専門家として、子育ての悩みについて助言・援助を行う
(2) 虐待の早期発見
① 子どもの様子・家庭の様子の観察を怠らず、虐待の兆しを見逃さない
② 虐待予防チェックシートを活用する
③ 虐待の可能性が疑われたら速やかに管理者に報告する
④ 各職員で役割を分担し、チームで対応する。
⑤ 信頼関係を保持しながら、関係機関と連携して援助する。
【子どもへの対応】
①子どもの味方であることを伝え、安心感をもたせる。
②声かけを多くするなど触れ合う機会を増やし、充分な受け止めをし、子どもが愛されているという実感を持てるように関わる。ただし子どもの親代わりになるのではなく、療育の専門家として特有の関係に巻き込まれないようにすること。
③自己達成感を通じて自信が持てるような機会をつくる。
④子どもの安全を最優先し、見守りの中でいつもと異なる変化が見られたら、速やかに関係機関に連絡する。
【保護者への対応】
① できるだけ関わりの機会を多くする。
② 追及や非難、追い詰めたりしない。
③ 不安、怒り、つらさ、悲しみを受け止め気持ちに寄り添う(受容・共感)
④ 子育ての不安や悩みには、共に考える姿勢を示し、気づきを援助する。
(3)虐待早期発見のポイント
次のような様子が複数見られたら虐待の可能性を疑ってみる必要がある。子どもや親の様
子・変化を注意深く見守ること。その際には具体的な情報を時系列に記録する。
■子どもの様子
身体面・不自然な傷(あざ・目の周りの傷・やけど)がよく見られる・治療していない傷がある・身長や体重の発達が著しくよくない・言葉や精神発達の遅れがある・身体が非常に汚れている(爪の伸び・耳垢・虫歯の多さ等)・髪の毛やまつげ、眉毛を抜いてしまう
表情・語りかけに対して表情や反応が乏しい、笑わない、視線が合わない・人の顔色をうかがい、おどおどしたりビクビクした様子が見られる。・おびえた泣き方をする・保護者と離れると安心した表情になる
行動・給食をむさぼるように食べたり、人に隠して食べる・嘘をつくことが多い・ささいなことに反応し、感情の起伏が激しく、パニックを起こしやすい・衣服を脱ぐときに異常な不安を見せる・落ち着きがなく警戒心が強い・遊びが長続きしない・年齢不相応な性的言動がみられる
他者との関わり・保護者が迎えに来ても喜ばず、帰りたがらないことが多い・保護者の前では従順になる・職員を試したり、独占したがる。異常に甘える・職員や子どもとうまく関われない・職員や子どもに対して乱暴、威圧的、攻撃的である・職員や子どもとの身体接触を異常に怖がる
生活の様子・衣服がいつも不潔である・基本的な生活習慣が身についていない・予防接種や健康診断を受けていない・理由なく長期間欠席している
■保護者の様子
子どもとの関わり ・態度や言葉が否定的である(誰かに預けたい、期待はずれな子、ほしくなかった子) ・叩いたり、怒鳴ったり、必要以上に厳しいしつけをしている ・乱暴に扱ったり、放置している・子どもに対して冷淡、または無関心である (泣いてもあやさない、抱かない、無視する)・子どもに能力以上のことを要求する・兄弟姉妹に対して差別的である・月齢や発達にふさわしい食事を与えない、料理をしない・子どもの怪我・やけどに対する説明や欠席の説明が不自然である
他者との関わり ・職員や他の保護者に対して消極的・否定的な態度をとったり、強く出たりする・職員や他の保護者との関係がもてない・職員との会話を避ける、または必要以上によくしゃべる・説明の内容が曖昧でコロコロ変わる・子どもに関する他者の意見に被害的・攻撃的になる
生活の様子 ・地域の交流がなく孤立している・不衛生な生活環境である・夫婦間の暴力が認められている・経済的に不安定である・生活のリズムが乱れている
保護者自身のこと・表情が硬い・ひどく疲れている・精神状態が不安定である・被害観が強い。偏った思い込み、衝動的、未成熟等・連絡が取りづらい・被虐待歴がある
4.虐待が疑われたら
(1) 子どもを療育する中で「いつもと違う」「どうしてあんなところに傷が」「十分に世話をしてもらってないのでは」等、虐待が疑われたら速やかに管理者に伝える。虐待予防チェックシートを記入する
(2) 家庭環境や保護者の心理状態、児童の様子を把握し、必要に応じ児童相談所へ連絡する
(3)職員は子どもの日常生活の見守りと安全の確保を第一に考え、関係機関と連携をとりながら継続的に援助していく(事業所全体で情報を共有する)
(4)職員は保護者と子どものプライバシー保護については高い意識を身につけ充分に配慮する <プライバシーについて> ※通告は守秘義務に優先する 通告によって、児童福祉施設職員が刑法上の守秘義務違反に問われることはありません (児童虐待防止法第6条第3項) ※虐待の通告は本人の同意を得ずに行うことが可能です(個人情報保護法第23条第1項 第1号) ※現行法上では、「虐待の事実がないことを知りながらあえて通告した場合や、それに準ずる場合を除き、法的責任を問われることはない」と解釈されています。
6.関係機関との連携
虐待を生みだす家族は複合的問題を抱えていることが多く、子どもを虐待から守り、家族修復までの息長い相談援助活動をすすめるためには、様々な関係機関との連携・ネットワークづくりが欠かせない。連携の際には、記録が重要となるので所内で起こったこと等を具体的に記録しておく。
関係機関との連携の流れ
① まずは電話連絡し、対応を協議する。緊急時の連絡先を把握しておく。
② 情報を提供し、緊急度の判断を待つ
【緊急性あり(要保護)】 通告を受けた機関は、情報収集や家庭調査を迅速に行い、子どもの安全確認、事実確認、緊急度の判断を行う。そこで緊急度が高いと判断されれば、「立入調査」「一時保護」により子どもを安全に確保する。
【緊急性なし】 緊急度がそれほど高くなく、住宅での援助が必要と判断した場合は、地域の機関が連携して、それぞれの役割を担いながら虐待が起きないように家族を支援する。住宅処遇のケースは全体のほぼ7~8割を占めており、保護した場合でも家庭に復帰した段階で、再び在宅処遇の対象になることから、虐待援助の主力は地域での支援ということになる。 ※その過程で子どもに危険が生じた場合は、速やかに保護する。
療育施設で「見守り・支援」を依頼された場合の留意点
(1) キーパーソンとなる専門家が誰かを知る
(2) 支援に関わっているチームメンバーとそれぞれが担っている役割を理解する
(3) キーパーソンとなる専門家と充分な連携をとり、どこにポイントをおいて見守りどのような支援が必要かを具体的に理解する
(4) 療育施設に期待されている役割を知る。また療育施設の見守りの限界について具体的に職員間で共有を行う
(5) キーパーソンとなる専門家への報告のタイミングを打ち合わせる (定期的な報告の方法・緊急と判断される場合の判断とその報告)
(6) 定期的な報告や連絡
7.関係機関連絡先一覧
横浜市こども青少年局障がい児福祉保健課 045-671-4274
横浜市西部児童相談所 045-331-5471
24時間こどもSOSダイヤル 0120-0-78310
5.虐待予防チェックシート
記録日: 年 月 日 記録者:
対象者:
チェック項目
状況登所時の様子
□怪我(あざ、傷、こぶ、その他)
□表情(ぐずる、元気がない、暗い等)
□衛生面(体の汚れ、異臭、同じ服、服の汚れ)
□保護者を怖がっている様子 保護者
□子どもと外傷等の状況と説明が不一致
□登所時の態度又は様子(疲れている、その他) 分離時(子どもと目を合わせない)
□頻繁に遅刻する(事前連絡の有無等)
□忘れ物が多い
遊びと生活の様子
□食事(がつがつ食べる、飲み込み、その他)
□表情(ぼーっとしている、無表情等)
□おむつ交換、衣服の着脱時に問題行動
□友人関係(攻撃的、言葉づかい等)
□遊びの中での様子(人や物への独占欲、その他)
□体調不良
□徘徊する
□午睡時(性器の露出等)
送迎時の様子 (子ども)
□保護者を見る表情、会話に違和感
□保護者と再会した時の態度の変化
(保護者)
□拒否的な態度が見られる
□保育者を避ける
□子どもを叱る、罵る
その他 その他の情報
□家族の様子(母親・父親・祖父・祖母・夫婦間・その他に不和、対立がある)
□経済状況(著しく不安定)
□就労状況(常勤・パート、その他)
□住まいの様子(不自然な転勤等)
□いつもと違う様子(身だしなみの乱れなど)